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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)4844号 判決

亡石田一雄遺言執行者

原告 竹田一司

右訴訟代理人弁護士 押谷富三

同 田宮敏元

同 辺見陽一

被告 石田フキ子

〈ほか二名〉

右被告三名訴訟代理人弁護士 井上太郎

主文

被告らは、原告に対し、別紙目録記載(二)の土地について、分筆登記手続をし、かつ、大阪法務局北出張所昭和四一年三月三〇日受付第七八三五号をもってなされた昭和四〇年七月一六日付相続による各共有持分三分の一の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、石田一雄が昭和四〇年七月一六日、死亡したこと、本件(二)の土地を含む本件(一)の土地及び本件建物がもと石田一雄の所有であったことは、被告らの認めるところである。

しかして、右事実と≪証拠省略≫を総合すれば、石田一雄と被告石田フキ子とは大正九年一月一七日、婚姻した夫婦であって、その間に、被告石田武、同西田直子ら四人の子供を儲け、被告ら家族と同居して、時計商を営んでいたが、昭和二〇年頃、本件(二)の土地上に木造居宅兼店舗を建築すると、被告ら家族とは別居して、同所に他の女性と同棲して、時計商を営み、一方、近隣の大阪市○区○○○○○丁目○○番地にも居宅を建築して、被告ら家族を居住させたが、生計は全く別個にしていたこと、石田一雄は、右のように昭和二〇年頃から、その死亡の日の昭和四〇年七月一六日までの間、被告石田フキ子とは別居して、夫婦としての実体はなかったこと、ところで、石田一雄は、その後、同棲していた女性と離別し、昭和三三年五月頃、山田あき子(当時三〇才位)と内縁関係を結んで、同棲生活に入り(右事実は、当事者間に争いがない。)、本件(二)の土地上の右木造居宅兼店舗で同棲していたが、昭和三七年一一月頃、右建物を取りこわし、そのあとに本件建物を建築して、右建物で同棲を継続していたこと、しかして、石田一雄は、明治二七年五月二七日、出生したもので、昭和三九年一月二八日当時、六九才の高令であったが、かねてから、自分の死後における山田あき子の生活の安心のため、本件建物及びその敷地である本件(二)の土地を同女に贈与して、同女に保有させたいと考え、その旨を同女にも告げていたこと、そこで、石田一雄は、右昭和三九年一月二八日、かねてからの意向に従い、自筆で、その全文、日付、氏名を書き、捺印した同日付書面をもって、「大阪市○区○○○○○丁目○○番地上の鉄筋ブロック二階建家屋及びその敷地を山田あき子に贈与する。」旨の意思表示を内容とする遺言をし、右遺言書を同女に交付したことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、本件(二)の土地及び本件建物は、石田一雄の死亡当時、その相続財産に属し、同人の死亡により、右遺言に基き、その死亡の日の昭和四〇年七月一六日、山田あき子が、その所有権を取得したものといわなければならない。

二、そこで、被告の抗弁について、判断するのに、すでに判示したところによれば、石田一雄は、妻があるのに、山田あき子と関係を続けていたのであるから、同女との関係は、いわゆる妾関係であったというべきところ、元来、妾に対して、金銭その他の物を贈与することが、その不倫な関係の維持継続を強要するためのものである場合には、右のような贈与は、公序良俗に反し、無効なものというべきであるが、妾に対する右のような贈与が、その生活を維持するのに必要な範囲内のものである限り、これをも公序良俗に反し、無効なものというべきではないと解するのが相当である。

しかして、これを本件についてみるのに、すでに判示したところと≪証拠省略≫を総合すれば、石田一雄が山田あき子に対し、本件(二)の土地及び本件建物を遺贈したのは、石田一雄において、山田あき子が老令の上、被告ら家族と別居していた自分と生活を共にしてくれたことについて、感謝する気持があり、かつ、同女が右土地、建物を保有することになれば、同女の将来の生活も安心できるであろうと配慮したことによるものであることが認められ、石田一雄が右遺贈により、同女に対し、特に将来、自分との関係の維持継続を強要しようとしたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、前記遺言をもって、直ちに、公序良俗に反する無効なものということはできないから、被告の抗弁は、理由がない。

三、次に、原告主張の三、四の各事実は、被告らの認めるところである。

四、してみれば、その余の点について、判断するまでもなく、被告らに対し、本件(二)の土地について、分筆登記手続をし、かつ、主文第一項記載の所有権移転登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は、正当として、認容されるべきである。

よって、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判官 佐藤栄一)

〈以下省略〉

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